こんにちは。薬剤師の鈴木です。
今回は、最近ピルが世間で話題に挙がったことを受けて、
低用量ピルについて薬剤師の視点から分かりやすく解説したいと思います。
前編では低用量ピルのメカニズムや様々な効果についてご紹介し、
後編では気になる服用方法や飲み忘れた際の対応などに触れます。
低用量ピルについては日本の教育の遅れもあってか、実際の多大なる恩恵とは裏腹にネガティブなイメージがまだまだ残っています。
本コラムが、そういったイメージを少しでも変えるきっかけになれば幸いです。
まずは低用量ピルのしくみから
低用量ピルは、妊娠プロセスに深く関わる女性ホルモンである、
・
卵胞ホルモン(エストロゲン)
・
黄体ホルモン(プロゲストーゲン)
上記の2つのホルモンが配合された避妊薬の総称です。
低用量経口避妊薬や、oral contraceptive の略でOC(オーシー)ともいいます。
低用量ピルが妊娠を防ぐメカニズムは
3つあります。
その1
低用量ピルを飲む
⇒ 2つのホルモンが脳に指令を送る
⇒ 指令を受けた脳が排卵に必要なホルモンの放出を抑える
⇒ 排卵がストップする(卵巣は働かないでお休み状態)
⇒ 子宮内に卵がないから受精もしない(主たる避妊効果)
その2
低用量ピルを飲む
⇒ 2つのホルモンが子宮の入り口から出る粘液(子宮頚管粘液)の粘度を上げる
⇒ ねばねばとした粘液がバリアとなり、精子が子宮内に入りづらくなる(避妊の補助的効果)
その3
低用量ピルを飲む
⇒ 2つのホルモンが子宮内膜に作用
⇒ 子宮内膜の肥厚が抑えられる(赤ちゃんを迎える“ふかふかベッド”が用意できない)
⇒ 万が一、受精が成立しても、着床しにくい状態になる(避妊の補助的効果)
このように低用量ピルは、二重三重のメカニズムで妊娠を防ぐため、飲み忘れず正しく服用すれば、99.7%の避妊効果を得られます。
膣外射精やコンドームなどと比較しても明らかに確実な避妊方法なのです。
低用量ピルは現代女性の救世主!
確実かつ女性主導でできる避妊方法として有用な低用量ピルですが、避妊効果以外にもたくさんの副効用があります。
低用量ピルの副効用を、薬のしくみと対比して見てみましょう。
●排卵がストップする
⇒
排卵痛がなくなる、
将来の卵巣がんリスクが減る
●子宮内膜が肥厚しない
⇒
経血が減る(月経過多改善)、
生理痛・月経困難症が軽くなる、
子宮内膜症改善、
将来の子宮体がんリスクが減る
●定期服用でホルモンバランスが整う
⇒
PMSが軽くなる、
生理不順改善、
ニキビや多毛などの肌トラブルが改善する
いかがですか?
女性のQOL(生活の質)を下げる様々な悩みに対しても、低用量ピルは有用なのです。
一昔前、女性は多産な時代でした。妊娠中は排卵や生理が止まるため、出産回数が多いほど卵巣や子宮が休まります。しかし現代では、出産回数が減ったことや初潮年齢が下がったことから生理の回数が増加しており、これが上に挙げたようなトラブルの一因ともいわれています。低用量ピルの服用によって、多産な昔と同じように卵巣や子宮を休めることが出来るのです。
生理痛のために仕事に穴を開けたり、それによってキャリアに影響が出たりと、不条理で悔しい経験をする女性は少なくありません。実際に私も月経困難症に何年も悩まされていましたが、低用量ピルを服用してから劇的に症状が軽くなりました。
日本は「ピル後進国」といわれおり、内服状況は約3%と低いです。
一方、フランスは約33%、カナダは約29%、アジア圏でもタイで約20%と、世界では低用量ピルが女性にとって価値ある選択肢として普及していることが、数字にもあらわれています。
正しく知って、活用しよう!注意点も
低用量ピルについてのイメージは変わりましたか?
今回解説した通り、低用量ピルは女性主導の避妊方法としても、様々な女性特有のトラブル改善としても、非常に有用な選択肢のひとつです。正しく知れば、怖がることも、恥じることもない薬です。
もちろん、喫煙者や血栓症のリスクのある人など、服用する前に確認するべき項目もありますし、服用中も定期的な婦人科検診は必要です。
また避妊効果と性感染症の予防効果は全く別のものであり、低用量ピルでは性感染症を防げません。性感染症を防ぐためには、コンドームを使用した方が良いでしょう。
このように注意点もありますが、それは他のどんな薬であっても同じことです。
大切な自分の身体に関わることですから、納得がいくまで理解を深めて、ぜひ正しく活用してもらいたいと思います。
後編につづく。
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