低用量ピルについて解説します―後編―

こんにちは。薬剤師の鈴木です。前回の続きです。 前編では、低用量ピルのメカニズムや様々な効果について解説しました。 後編では具体例な服用方法や飲み忘れた際の対処方法などを解説したいと思います。 それではさっそくいってみましょう。

意外と簡単な低用量ピルの服用方法
まず、低用量ピルの服用方法です。 ピルの飲み方は一見すると難しそうですが、実際は難しくありません。 よく疑問に挙がるのが28錠タイプと21錠タイプの違いですが、図解で見てみましょう。
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28錠(ED:EveryDay)タイプと、21錠タイプは本質的には変わりません。どちらも生理が来た日から服用を開始し、21日間は有効成分入りの錠剤を飲みます。その後、22~28日目の期間中に消退出血(生理)が来ます。 28錠タイプは、29日目すなわち次のクールの1日目に飲み忘れを起こさないように、有効成分を含まない偽薬(プラセボ錠)を日付カウントとして飲みます。一方の21錠タイプは休薬期間となり、次に飲む日付は自分で把握する必要があります。 そのため、28錠タイプの方が飲み忘れを防ぎやすいといわれています。 また図に示したように、トリキュラーなどの3相性タイプは、有効成分入りの錠剤が3種類に色分けされています。シートのどこから飲んでもOKな1相性と違って、順番通りに飲まないといけない点に注意が必要です。とはいえ、たいていは矢印や数字がシートに書かれているため、迷うことはありません。 つづいて、一部の「超低用量ピル」とよばれるタイプを見てみましょう。
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「ヤーズ」や「ミニドズ(海外のみ)」といった商品は、24錠の有効成分錠と4錠の偽薬で構成されています。 このタイプも生理が来た日から服用を開始する点は他のタイプと同じです。一方でこのタイプは、お休み期間が25~28日目までの4日間と短いです。そのため次のクールに入る時点(29日目)で出血が終わらないケースもありますが、気にせず服用を開始しましょう。 いかがですか? 飲み方はワンパターンで、そんなに難しくないと思われたのではないでしょうか。低用量ピルは正しく服用出来ていれば、特に飲み方で迷う部分はありません。やっかいなのは、飲み忘れてしまった時なのです。
飲み忘れは厳禁。それでも忘れてしまったら
大原則ですが、低用量ピルは飲み忘れ「厳禁」です。 前編で低用量ピルのしくみを学びましたが、イメージしてみてください。脳にも、子宮にも、さまざまな指令を送る重要なホルモンを飲むことになるのです。 それが、いつもと違う時間に指令が来たり、指令が突然途絶えたりしたら、脳や子宮はどうなるでしょう? 飲み忘れによって、体はどう反応したらいいのか分からなくなってしまうのです。 ですから、低用量ピルは必ず決めた時間に飲むことを強く意識しましょう。ズレても問題ない目安は予定時間の前後2~3時間です。 今はスマホのアラームや飲み忘れ防止アプリなど、飲み忘れを防ぐ手段も充実しています。 それでも忘れてしまった!という場合の対処方法を、具体例で見てみましょう。 ※これから例示する対処方法はあくまで1例です。飲み忘れ時の対処方法は国際的にもいくつかの方法が存在します。迷った時には必ず医師・薬剤師に相談しましょう。
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例① 1週目で飲み忘れ、最後に飲んでから24~36時間程度経過 例えば、毎晩22時に飲んでいた人が翌日の朝食前に気付いたようなケースです。この場合は気付いた時点ですぐに忘れた1錠を飲みます。ピルは7日間連続して服用した頃から避妊効果が確実となるので、1週目で忘れた場合はまだ不確実です。よって、忘れた日から7日間は、他の避妊方法も併用しましょう。 例② 3週目で飲み忘れ、最後に飲んでからちょうど48時間経過 ピルを服用する時間になって「あれ!昨日飲んでなかった!」と気づくケースです。この場合は、昨日の分と今日の分を2錠まとめて飲みます。3週目であれば、すでにピルを7日間以上連続して服用出来ている状態なので、追加の避妊方法は必ずしも考慮しなくて大丈夫です。 例③ 偽薬(プラセボ錠)を飲み忘れた 偽薬は日付カウントの為だけに存在するものなので、飲み忘れても何も対処はいりません。
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例④ 2日以上連続して飲み忘れ、最後に飲んでから48時間以上経過 ピルを服用する時間になって「昨日も、おとといも飲んでなかった!」と気づくケースです。最後の服用から72時間を経過しており、避妊効果を維持できているか怪しくなります。したがってこの周期の服用継続はあきらめて、生理が来るのを待ちます。生理が来たら新しいシートの1日目からやり直します。わずらわしく、ホルモンバランスも乱れてしまうため極力避けるべきケースです。 いかがでしたか? 低用量ピルは非常に高い避妊効果のある薬ですが、飲み忘れがあると効果は下がってしまいます。 特に偽薬期間(休薬期間)が明けたあと、新しいシートの1日目はうっかり忘れやすく、またこの1日目を逃すと排卵が起きてしまう確率も上がるため、要注意です。 また生理不順の改善などを目的に低用量ピルを服用する場合も、飲み忘れが多いとホルモンバランスが整いにくいため、気を付けましょう。 とはいっても、心掛けだけで忘れないようにするのは難しいものです。 アラームアプリの活用シートに直接日付を記入、といったひと工夫をするだけで飲み忘れる確率はグッと下げられますので、ぜひ自分に合った方法でトライしてください。
おわりに
前編・後編と、2回にわたって低用量ピルについて解説しました。 最後に、リプロダクティブヘルス&ライツに少しだけ触れたいと思います。 これは「性と生殖に関する健康と権利」と訳され、1994年にカイロで開かれた国際人口開発会議によって世界中に提唱された理念です。 「子供を産むか産まないか、産むとしたらいつごろ、何人か等、生殖に関する意思決定は、全てのカップルや個人が、自由に責任を持って決断する権利をもつ」というのが、リプロダクティブライツという考え方です。 そして、それを身体的、精神的、社会的に実現できるような良好な状態を、リプロダクティブヘルスといいます。 26年も前に提唱された理念ですが、果たして今日の日本で、リプロダクティブヘルス&ライツは守られているのでしょうか。 日本は性教育が不足しており、子供は大人に聞きづらい環境ですし、大人は尋ねられても正しく教えてあげられない事が少なからずあります。 アフターピルや低用量ピルについても、自ら調べない限り知る機会が無いのが現状かも知れません。 「性と生殖に関すること」は、男女関わらず全ての人にとって重要なテーマです。 “恥ずかしいこと”と捉えずに、皆で考えて、話し合える社会になると良いなと思います。 それではまたお会いしましょう。

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