こんにちは、薬剤師の黒岩です。
本日は、最近、テレビをはじめとするメディアで取り上げられ、話題になっている『ピロリ菌』について、お話しようと思います。
日本人がかかりやすい胃がん
がんは日本人における
死因の1位を占めています。
部位別でみるとがんの中で最も患者数が多いのが
胃がんです。胃がんの比率は年々減少傾向ではありますが、日本は先進国の中で最も胃がんの多い国です。
ただ、胃がんはがんの中でも
治りやすいがんとして知られており、特に早期胃がんの予後は大変良好です。すなわち、早期発見、早期治療が重要ながんといえるでしょう。
地域別では、秋田・山形・新潟など東北地方の日本海側に胃がんが多いとの疫学データがあります。これは、
塩分摂取の多い食生活(漬物・魚の干物など)が関係していると考えられています。ほかにも、胃がんのリスクファクター(危険因子)としては、タバコや、本コラムのテーマ
ピロリ菌が挙げられます。
『ピロリ菌』とは
さて、
ピロリ菌とはいったい何者でしょうか?
かわいらしい名前ですが、その正式名称は、
ヘリコバクター・ピロリ(H.pylori)です。
胃の中は、通常つよい酸性に保たれており、普通の菌は住みつけませんが、この
ピロリ菌は一味違います。
ピロリ菌は、ウレアーゼという酵素を産生し、胃の中でアンモニアを生じさせます。このアンモニアが胃酸を中和することで、
ピロリ菌にとって活動しやすい環境を生み出してしまうのです。
塩酸(胃酸)とアンモニア水での理科の実験を思い出していただければ、この中和を想像しやすいかと思います。
こういった作用で
ピロリ菌が住みついてしまうと、胃がんや、胃炎、消化性潰瘍などのリスクが上がってしまいます。また、最近ではピロリ菌が口臭の原因となったり、認知機能の低下に関わることもわかってきたため、多くのメディアで取り上げられています。
あなたの胃もたれや吐き気、食欲不振の原因はこの
ピロリ菌にあるかもしれません。
WHO(世界保健機構)の見解
WHO(世界保健機構)では、
ピロリ菌を明確な発がん作用のある細菌であると認定しています。また、全世界の胃がんの約80%がピロリ菌の感染が原因であるとの発表をしており、
ピロリ菌除菌により胃がんの発生を30~40%ほど減らせるとしています。
ピロリ菌の検査をしよう!
ピロリ菌の検査方法には、様々あります。
尿素呼気試験法が最も精度が高い検査法ではありますが、専用の医療機器などが必要であり、どこの病院でもできるわけではありません。また、一般的に費用も高価ですので、まずは糞便中抗原測定による検査もおすすめです。
糞便中抗原測定は、便の中の
ピロリ菌を抗原(目印)として特異的に検出する方法です。抗体(ピロリ菌に対抗してできる免疫分子)を検出する間接的な方法とは異なり、ピロリ菌抗原を直接測定しますので、精度が高く、
除菌前・除菌後どちらのピロリ菌検査にもご使用いただけます。
ちなみに、2018年6月現在、特に症状がなく、ピロリ菌に感染しているかどうかを病院などで調べる場合は自由診療となっており、糞便中抗原測定で5,000円程度、その後の除菌治療で1万円程度となってしまいます。
(※検査の方法、条件、医療機関により費用は変わります)
オオサカ堂では、この糞便中抗原測定を自宅で簡単に低コストで行うことができるセルフ検査キットを取り扱っています。
検査(+)なら除菌を!
もし検査が陽性でしたら、
ピロリ菌の除菌を推奨いたします。
ピロリ菌の除菌は、
3剤併用療法で行います。
3剤併用療法とは、
2つの抗菌剤と、
PPI(プロトンポンプ阻害薬)という胃薬を使用する方法です。PPIにより胃酸の分泌を抑え、つよい酸を和らげることで、抗菌剤の働きが低下するのを防ぎます。薬の組み合わせ(レジメン)には、いくつか種類があります。
▼レジメンA
ランソプラゾール 30mg
アモキシシリン水和物 750mg
クラリスロマイシン 200mg または 400mg
※1日の服用分すべてが1シートに納められたパック製剤の
ランサップがあります。
▼レジメンB
オメプラゾール 20mg
アモキシシリン水和物 750mg
クラリスロマイシン 200mg または 400mg
▼レジメンC
ラベプラゾール 10mg
アモキシシリン水和物 750mg
クラリスロマイシン 200mg または 400mg
※1日の服用分すべてが1シートに納められたパック製剤の
ラベキュアがあります。
▼レジメンD
エソメプラゾール 20mg
アモキシシリン水和物 750mg
クラリスロマイシン 200mg または 400mg
いずれかのレジメン(A~D)の3剤を同時に1日2回、7日間、服用します。
1週間毎日飲み続けなければ十分な効果が得られません。
1日2回、3つの薬を確実に服用するように心がけましょう。また、服用終了後は、除菌の成功・失敗を確認するために、ピロリ菌検査を再度実施する必要があります。
一次除菌(1回目の除菌)での除菌成功率は80%ほどですが、近年、低下傾向にあります。これは、主に抗菌剤であるクラリスロマイシンを中心とした、ピロリ菌による薬への耐性獲得があると考えられます。
一次除菌で除菌が成功しなかった場合には、3剤のうち、クラリスロマイシンを
メトロニダゾールへ置き換えた
二次除菌(2回目の除菌)もあります。
▼二次除菌レジメン
プロトンポンプ阻害薬
ランソプラゾール 30mg
または
オメプラゾール 20mg
または
ラベプラゾール 10mg
または
エソメプラゾール 20mg
いずれか1剤
アモキシシリン水和物 750mg
メトロニダゾール 250mg
上記3剤を同時に1日2回、7日間、服用します。
最後にひとこと
ピロリ菌の除菌ではたくさんの抗菌剤を飲みます。抗菌剤は腸内の善玉菌も殺してしまうため、副作用として軟便や下痢が起こることがあります。これらの副作用が生じても軽度の場合は、途中で服用をやめずに1週間しっかりと飲みきるようにしましょう。
また、副作用を抑えるには、乳酸菌製剤(ビフィズス菌など)をお飲みになるのもおすすめです。